相続税の事例

相続税の事例

 

小規模宅地等の特例の適用事例

リサイクル業を営んでいた父が他界し、父が所有していた不動産を私と兄が次のとおり相続しました。

父の自宅 敷地面積350㎡ 敷地の相続税評価額17,500万円 兄が相続
賃貸マンション 敷地面積100㎡ 敷地の相続税評価額28,000万円 私が相続
リサイクル業の店舗 敷地面積500㎡ 敷地の相続税評価額20,000万円 兄が相続

この場合、どの不動産の土地(敷地)を小規模宅地等として選択すれば、相続税の総額が最も少なくなるのでしょうか。

なお、兄は独身で、マンションを賃借して住んでおり、今まで自己所有の自宅に住んでいたことはありませんが、今後は父の自宅に住み、リサイクル業も引き継ぐ予定です。

この事例の場合、平成25年度の小規模宅地等の特例に関する税制改正により、平成26年中に相続が発生した場合と平成27年以後に相続が発生した場合で選択すべき土地が異なりますので、注意が必要です。

 

【平成26年中に相続が発生した場合】

相続物件に関して小規模宅地等の特例を適用する場合、それぞれの敷地の適用限度面積と減額割合は以下のとおりです。

相続物件 特例種類 限度面積 減額割合
父の自宅敷地 特定居住用宅地等 240㎡ 80%
賃貸マンション敷地 貸付事業用宅地等 200㎡ 50%
リサイクル業の店舗敷地 特定事業用宅地等 400㎡ 80%

なお、特例種類を併用する場合の限度面積は、以下の算式により調整計算されます。
特定事業用宅地等+特定居住用宅地等×400/240+貸付事業用宅地等×400/200≦400㎡

各特例種類を単独で適用する場合の1㎡当たりの減額金額は、
・父の自宅敷地 17,500万円/350㎡×80%=40万円
・賃貸マンション敷地 28,000万円/100㎡×50%=140万円
・リサイクル業の店舗敷地 20,000万円/500㎡×80%=32万円

となり、各特例種類を併用する場合の限度面積の調整計算を考慮すれば、次の減額単価を比較して、減額単価が大きいものから適用すれば減額される総額が最も大きくなり、相続税の総額が最も少なくなります。

・父の自宅敷地 40万円×240/400=24万円
・賃貸マンション敷地 140万円×200/400=70万円
・リサイクル業の店舗敷地 32万円

従って、最も減額単価が大きい賃貸マンション敷地100㎡をまず適用対象とし、残った限度面積(400㎡-100㎡×2=200㎡)に達するまで、2番目に減額単価が大きいリサイクル業の店舗敷地を適用すればよいことになります。

この場合の減額後の相続税評価額は、以下のとおりです。
・父の自宅敷地 17,500万円(減額適用なし)
・賃貸マンション敷地 28,000万円-28,000万円×100㎡/100㎡×50%=14,000万円
・リサイクル業の店舗敷地 20,000万円-20,000万円×200㎡/500㎡×80%=13,600万円

合計 17,500万円+14,000万円+13,600万円=45,100万円

 

【平成27年以後に相続が発生した場合】

平成27年以後においては、特定居住用宅地等の限度面積が拡大されます。相続物件に関して小規模宅地等の特例を適用する場合、それぞれの敷地の適用限度面積や減額割合は以下のとおりです。

相続物件 特例種類 限度面積 減額割合
父の自宅敷地 特定居住用宅地等 240330 80%
賃貸マンション敷地 貸付事業用宅地等 200㎡ 50%
リサイクル業の店舗敷地 特定事業用宅地等 400㎡ 80%

これに伴い、特例種類を併用する場合の限度面積の調整計算も、以下の算式による計算に変更されます。
特定事業用宅地等+特定居住用宅地等×400/240330+貸付事業用宅地等×400/200≦400㎡

つまり、各特例種類を併用する場合の限度面積の調整計算を考慮した減額単価についても、次のように変化します。
・父の自宅敷地 40万円×240330/400=33万円
・賃貸マンション敷地 140万円×200/400=70万円
・リサイクル業の店舗敷地 32万円

また、もう一つの大きな改正点として、特定居住用宅地等と特定事業用宅地等だけを併用し、貸付事業用宅地等を併用しない場合には、併用時の限度面積の調整計算がされずに、特定居住用宅地等と特定事業用宅地等のそれぞれの限度面積まで(330㎡+400㎡=730㎡まで)、適用が可能となります。

従って、平成26年中に相続が発生した場合と異なり、この事例の場合には、限度面積の調整計算がされてしまう賃貸マンション敷地は適用対象とせず、限度面積の調整計算がされない父の自宅敷地とリサイクル業の店舗敷地を適用対象とするのが最も有利となります。

この場合の減額後の相続税評価額は、以下のとおりです。
・父の自宅敷地 17,500万円-17,500万円×330㎡/350㎡×80%=4,300万円
・賃貸マンション敷地 28,000万円(減額適用なし)
・リサイクル業の店舗敷地 20,000万円-20,000万円×400㎡/500㎡×80%=7,200万円

合計 4,300万円+28,000万円+7,200万円=39,500万円

 

代償分割を行う場合の相続税の計算事例

父が他界しましたが、収益不動産1棟が相続財産の大部分でした。収益不動産の相続税評価額と時価(市場取引価格)は次のとおりです。

相続税評価額6,000万円 (小規模宅地等の軽減後) 時価(市場取引価格)10,000万円

相続人は私と弟の2人ですが、2人で1つの不動産を共有すると後々トラブルになることもあるとききましたので、私が収益不動産の全部を相続し、代わりに、収益不動産の時価相当額の半額である5,000万円を現金で弟に渡す、いわゆる代償分割をすることにしました。
この場合、相続税はどのように計算されますか。

この事例の場合、私が弟に渡した現金5,000万円は、代償財産として弟が取得した相続財産の課税価格に含まれ、一方で私が取得した相続財産の課税価格から控除されることになります。

従って、収益不動産以外に相続財産がないとすると、私と弟の課税価格は次のようになります。
・私… 収益不動産6,000万円-代償財産5,000万円=1,000万円
・弟… 代償財産5,000万円

このように、相続税の課税価格の総額は変わらないので相続税の総額も変わりませんが、相続税の負担比率は私1に対して弟5になり、収益不動産を半分ずつ共有で相続した場合と比べると、相続税の負担に偏りが生じてしまいます。

ただし、相続税の課税価格に加減算する代償財産の価額は、代償分割の対象となった財産の相続税評価額ベースに引き直して計算することもできます。

つまり、この事例では相続税評価額が6,000万円である収益不動産を代償分割するために、時価10,000万円を基準として5,000万円の代償財産を授受しているので、相続税の課税価格に加減算する代償財産の価額は、実際に授受した5,000万円ではなく、5,000万円×6,000万円/10,000万円=3,000万円として計算することが認められます。

この方法により計算すれば、私と弟の課税価格は次のとおりそれぞれ3,000万円ずつとなり、相続税の負担比率も収益不動産を半分ずつ共有で相続した場合と同じになります。

・私… 収益不動産6,000万円-代償財産5,000万円×収益不動産の相続税評価額6,000万円/収益不動産の時価10,000万円=3,000万円
・弟… 代償財産5,000万円×収益不動産の相続税評価額6,000万円/収益不動産の時価10,000万円=3,000万円


 

二次相続を考慮した遺産分割を行った場合の相続税の事例

父が他界し相続財産は次のとおりですが、母も高齢であるため、二次相続での相続税負担も考慮して遺産分割をしたいと考えています。
一方で、配偶者控除を使えば、今回の相続では母の法定相続分までは相続税がかからないとも聞きました。
どのように遺産分割すれば、二次相続まで考慮して税負担を減らせるのでしょうか。

なお、相続人は母と私の2人で、父の生前から自宅で同居していますので、今回の相続では自宅敷地について母も私も小規模宅地等の特例を適用できますが、私は今後転居する予定があり、二次相続では小規模宅地等の特例は適用できない予定です。

・自宅敷地 敷地面積240㎡ 相続税評価額30,000万円
・その他の財産 相続税評価額60,000万円

配偶者控除を利用することで、今回の相続では母の法定相続分である1/2までは相続税がかかりませんので、母に法定相続分まで財産を取得してもらうことで今回の相続における税負担を最小にすることができます。

ただし、二次相続における税負担を減らすためには、小規模宅地等の特例を適用する財産は母が相続せずに、私が相続する必要があります。
これは、母が法定相続分である1/2まで財産を取得することは同じでも、その中に小規模宅地等の特例を適用する財産が含まれていると、そうでない場合に比べて、特例で減額された金額の分だけ二次相続の際の課税価格が増えてしまうためです。

今回の相続において自宅敷地を母が取得する場合と私が取得する場合の、それぞれの場合における二次相続までの相続税の計算は、次のとおりです。

 

【今回の相続税の計算】

① 課税価格
30,000万円-30,000万円×80%+60,000万円=66,000万円
② 基礎控除
5,000万円+1,000万円×2人=7,000万円
③ 差引金額
①-②=59,000万円
④ 相続税の総額
59,000万円×1/2=29,500万円
29,500万円×40%-1,700万円=10,100万円
10,100万円×2=20,200万円
⑤ 最小税額の計算
母が配偶者控除を限度額まで適用できるように、66,000万円×1/2=33,000万円を母が取得すれば、税額が最小となります。この場合の税額は、20,200万円×1/2=10,100万円となります。

 

【二次相続時の相続税の計算(母の相続財産に自宅敷地が含まれている場合)】

① 課税価格
33,000万円+30,000万円×80%=57,000万円
② 基礎控除
5,000万円+1,000万円×1人=6,000万円
③ 差引金額
①-②=51,000万円
④ 相続税の総額
51,000万円×50%-4,700万円=20,800万円

 

【二次相続時の相続税の計算(母の相続財産に自宅敷地が含まれていない場合)】

① 課税価格
33,000万円
② 基礎控除
5,000万円+1,000万円×1人=6,000万円
③ 差引金額
①-②=27,000万円
④ 相続税の総額
27,000万円×40%-1,700万円=9,100万円

このように、自宅敷地を母が取得する場合には、そうでない場合の2倍以上の相続税が二次相続において生じる結果となりました。

自宅だから奥さんが全て取得する、というのはよくあるケースですが、状況によってはこの事例のように、二次相続において税負担が大きく増えてしまう可能性があります。

また、この事例では母の固有財産や二次相続までの財産の増減などは一切考慮しておりませんが、遺産分割に際しては、二次相続における特例の適用可否、二次相続までの間の財産の増減や費消の見込みなどを考慮して分割方法を検討することも重要です。

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